胎を括れ
若手の社員がやや緊張の面持ちで私を尋ねてきた
仕事に対して、やる気はあるのだが不安と悩みを抱えていているので聞いて欲しいという
日頃の仕事ぶりや表情から、解決策は大体想像はついたが、彼は色々な事を話してくれた
その上で彼に伝えるべき想像していた解決方法は確信に変わった
胎を括る事だ
一見おちゃらけているようだが根は真面目だ
身のこなしが軽いようで実は石橋を叩く
目立ちたいくせに周りを意識しすぎる
事前準備をしてお膳立てが無ければ飛ぶことができない、
非難される事を恐れてしまう
彼の持つ悩みや不安は胎を括れば解決する
ある若者の話
15年前、飲食コーナ―に勤める職人の首を一斉に切った
料理は作れてもその精神が気に入らない、ちゃらんぽらんで自分の仕事に誇りを持たず人生を舐めた様な奴等だ
その代り、当時20歳の恐ろしい程常識を知らない、調理経験が全くない若者を調理場の責任者にした
封筒に切手を貼らず、宛先も記入せずにポストに投函をするような奴だ
そのくせ、”俺に何かやらせろ”当時の奴はそんな目をしていた
彼の母親くらいにパートさんばかりの中で本当にまとめられるのだろうか?
暫くするとパートの中心となっていた女性が私に直談判にやってきてこういう
”彼をとるか、私をとるか決めてください”
彼女が抜ければ厨房はガタガタになる事は解っていた
僕は奴を呼んでこう伝えた
”お前が胎を括るなら、俺も腹を括る”
そして僕は奴を選んだ
その後奴は厨房で少しづつ力を発揮していき、やがて一目置かれるようになっていった
その時彼は本当に胎を括ったのだろうか?
それから10年以上、奴は厨房の中心人物として活躍してくれた、相変わらず彼自身が気付かない非常識な部分は周りの人をイラつかせもしたが、奴の想いや技術は厨房に於いて彼なしでは考えれrないようなっていた
組織が次第に大きくなり、人も多くなっていく中で現場の奴との距離は少しづつ遠くなる
常識論が先行して、聞こえてくる声に判断が鈍る事もある
やがて奴は僕の前に現れて仕事を辞めるという
辞めて調理とは違う道に進むという・・・・
僕はそれを認めた
奴はこの時本当に胎を括っていたのだろうか?
僕はこの時本当に胎を括って彼に対峙していただろうか?
首に縄を括りつけてでも引き留めるべきだったのではないか?
未だに自問自答を繰り返す
奴も真面目な人だった、人としての倫理観と常識のある人だった
胎を括ると凄味がでる、凄味が出ると周囲を引きずる事ができる
平均的な常識論なんて小事に過ぎない、
引きずられた人の単なるやっかみでしかない
胎を括れば、全ては解決する
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