街中銭湯の生き方を学ぶ:尼崎蓬莱湯

兵庫県尼崎市でユニークな銭湯経営をされている蓬莱湯を訪ねてきました。

阪神電車尼崎センタープール前下車、歩いて5分もかからない住宅地の中にお店はあります。

5年前駅前に年間集客数が60万人とも70万人とも言われる超巨大スーパー銭湯ができる状況の中で如何に生き抜てこられたのかをお聞きする機会をいただきました。

住宅街に溶け込むデザイナーズ銭湯

遠目の煙突を目指して歩くが、住宅街にある黒板の壁に浮かぶ暖簾、一見小料理屋を思わすエントラスは意識をしないと銭湯とは思えない

外暖簾をくぐりこじんまりとした下足箱に靴を預け内暖簾を潜るとおもむろにローテーブルリにローソファーのリビングルームが目に飛び込んできます、まるで友人の家に遊びにきたよな感覚で、横を向けば広めのキッチンテーブルのような受付カウンターがあります。

 

小料理屋のような銭湯運営

アットホームな感じの作り方ではなくて、正にアットホーム、9年前に改装した際設計をお願いしたのが住まい塾の高橋修一先生、住まいに関する設計では有名な先生だそうです!!

温浴施設や商業施設の設計事務所は沢山知ってますが、そうか本当にアットホームな空間を作るのならその道の先生とのお付き合いも大切だと納得できます!!

女将の稲里美さんはこの自宅リビングのような空間で毎日お客様を自宅に戻って来たように出迎えをされているのです。

フロントには自らセレクトされた他所では手に入らないような地サイダーが並び、貸しタオルやバスタオルも自らがセレクトされた今治タオルや泉州タオルが雑貨店のように置かれています、そしてそれを洗う洗剤も拘りの洗剤だったり、貸し出しのドライヤーもコイン式でなく美容室のプロが使うようなドライヤーを手渡しで借りられる・・・

 

随所に女将の拘りが光っているのです

なぜこの銭湯が大型スーパー銭湯ができても運営できているのかは一目で理解できました。

スーパー銭湯はファミレスで、ここは小料理屋なのです。

お風呂に入るという目的は食事をするという目的と似ています、問題はどこで食事をするか?

ファミレスやチェーン店のレストランを好む人も居れば、専門料理店や大衆食堂が好きな人も居ます。

お風呂の場合、小料理屋というカテゴリーが極端に少ない

ファミレスやフードコートに例えられるスーパー銭湯、高級店に例えられる日帰り温泉や、料亭のような温泉宿がある中で街中銭湯の多くは大衆食堂のような位置づけ、料理を出すという基本機能は提供しているが店の女将が食事を楽しむ空間をセンスよく作り出し、人間的な暖かさを提供できている小料理店のような施設は街中銭湯が請け負うべきですが、そんな銭湯はあるようで見当たらない気がします。

入浴をするという基本機能で大きな違いや特色が出しにくいのであれば、やはり重要なのは人間力、運営者の人柄が心地よいと感じる関係性の力が重要で蓬莱湯を利用するお客様が求めているものは大型フードコートのような大型施設ではないということです。

そしてこれが多く街中銭湯が生き残る重要な事だと感じます。

徹底した拘りが強みなる

もちろん、蓬莱湯は基本機能としてとても良い泉質の天然温泉に浸かることができます、清潔な浴室で良い温泉に入るのは美味しい料理を食べるようなものです。

脱衣場、浴室も木に拘り蛍光灯は一切使わず間接照明の暖かな空間は特別感のある空間です

 

オレンジ色の照明、脱衣ロッカー上から差し込む光と下窓から見える緑に癒されます

 

源泉掛け流しドットネットより 

(グッチさん元気かな?)

浴室は関西式銭湯によくある中央にメインの浴槽が居座るタイプ、とてもシンプルな浴室ですがや蛍光灯は使わず光の使い方がとてもうまく寛げる空間です。

儲けの柱をもう一つ持つ事

女将の話でもう一つ参考になったのは温泉を使ったオリジナル商品の開発をされている事、そしてその商品の開発資金はクラウドファンデイングで集めているそうです。

温泉を濃縮する装置を購入して、今まで製品化されたのは石鹸、ボデイーシャンプー、化粧水、クリームのオリジナル商品。全てが蓬莱湯の温泉成分を含んだここでしか買えない商品です。

この商品は話題性もあって開発段階で好調な売れ行きなものもあれば、ネット経由で大手企業から大量注文も入る事があるそうです

 


商品ラインナップ(ネットで購入できます)

街中銭湯ではなかなか客単価をあげる事は難しいです、

それ以上に新規客を開拓する事はもっと難しい、そんな中で儲けの柱をもう一本持つ事が重要です。

安定経営を行われている施設の多くは不動産を所有してそこからの収入がある場合が多いようですが、もう一つ商売の柱となるものを持つ事は今後営業を続ける上でも必要な事でしょう。

ある施設のオーナーは家族経営から脱却したいと考えておられますが、銭湯運営だけで人を採用するにはやはり大きな課題が幾つもあります、飲食店やリラクゼーションを併設している場合はその中で事業のオペレーションを行う事ができますがそうでない場合は人件費の負担が大きくなります。

ちょうどそんな相談をお受けしているところなのでこれからいろんな物作りにも挑戦したいと仰る女将の動きは多くの銭湯運営者にとって道標になるのではないかと思います。

これからの銭湯にとって重要な事

1、小料理屋の経営のように拘りと関係性を大切にする事

2、儲けの柱をもう一つ作る事ができる事

言い古された事のようですが、ちゃんとそれを実行されているとても素晴らしい施設でした。

稲さんとの貴重な時間、リビングのようなお店のフロアーでついつい2時間も過ごしてしまいました。

本当に居心地の良い空間ですありがとうございました。

蓬莱湯公式HP

 

 

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小野康成 温浴施設コンサルタント 温浴施設の持つポテンシャルを視座を変えて見つめ直すと実に多くのサービスを提供できます。それを必要としている人が地域には溢れています。17年間で複数の温浴施設・飲食店を立ち上げ現場指揮から得た経験から、施設と地域と人を繋ぐプロデユースを行なっています。