田舎で繁盛店を創る:地域と人を育てる温泉施設の取り組み
新しくできた温浴施設には二つのパターンがあると思います。
完成したその時にピークを迎える施設と、日に日に商品力を高めて進化を行う施設です。
ピークが過ぎ去り、持てる価値をすり減す中でリノベーションして再び息を吹き返す場合もありますががやはりそこにも2つの道があります。
一つは出来上がった定型の仕組みを取り入れパターン化した情報で再生を辿る方法と施設ごとに地域性やテーマを踏まえカスタム化して日に日に商品力を高めて行く施設です。
大江戸温泉や愉快リゾートなどは前者、後者を実践している企業は大手ホテルでは星野リゾートグループの経営スタイルがそう言った形だろうと思います、そして温浴業界では我がブログでもしばしば取り上げるが温泉道場がそのスタイルの最右翼ではないだろうか
先日行われたテルマエジャパンで温泉道場の山崎代表の話を聞いてきたので改めて感じたことをレポートします
目次
人口1万人の超ローカル地区の施設が町のシンボルになる
埼玉県児玉郡神川町と同じく比企郡ときがわ町はともに人口1万人強の山間の集落とも言えるローカルな町ですが、そこにはそれぞれに連日地元の人達で賑わう温浴施設があります。
温泉道場が手がけるおふろCaffe白寿の湯(埼玉県児玉郡神川町)と昭和レトロな温泉銭湯玉川温泉(埼玉県比企郡ときがわ町)はともに田舎町に作られった町の人がたまに行く温泉ランドのような施設でしたが今や町の顔とも言える地域文化の発信や交流に欠かせない中心的な存在となっています。
飲食比率なんと50%地産地消にこだわるおふろCaffe白寿の湯
白寿の湯の飲食比率は50%を超えているそうです、飲食が目玉の日帰り温泉でもこの数字はなかなか難しい、地域の温浴施設といては驚異の数字だと言えます。
地元の食材にこだわり、その素材を地元の醸造所の味噌、醤油、麹を使った料理、蕎麦や卵も地元の素材を使っ健康に配慮した料理を提供する、もちろん料理に合う酒も地元の日本酒も用意してあります。
館内はついつい長居をしたくなる心地よい滞在を促す雰囲気が満載で、のんびりしたくなるその仕掛けが家庭的で心が篭っている、押し付けた作り物ではないのが心地よい施設です。
お客様はまるでエキストラ!!昭和レトロな銭湯玉川温泉
比企郡ときがわ町は夏は川に蛍が飛び、ヤマメが釣れる、それほどの清流が流れる田舎の町で、この田舎町になんとなく都会の雰囲気が漂うおふろcaffeを運営する温泉道場の本社があります。
本社なのにおふろCaffeを名乗らないのが昭和レトロな温泉玉川温泉。
この施設を目指して、かつてこの街を鉄道を使って訪れたことがあります。
大阪から直行で東京駅に降りそこから延々と乗り継いでやっとたどり着いた町の駅はなんと無人駅でした!精算はどうすりゃいいんだ・・・と思いつつ駅舎を出るが何もなく、ぽつりと1台のタクシーの中で気持ちよさそうに昼寝している運ちゃんを起こして行き先を告げました!!
対向車もほとんどない田んぼのあぜ道を通りながら、本当にこんなところに繁盛店があるのか心配になるも、やがてやたらと車が止まっている一角で下ろされた、そこが玉川温泉でした。
いかにも田舎を思わせるオブジェとは思えないミゼットに出迎えられながら入店した世界は正に昭和の世界が広がっておりました。
何よりも驚いたのは、飲食コーナを兼ねた座敷の前のステージで多くに人達が昼間から自分のもち歌をカラオケで順番に披露している姿、僕の育った街では地蔵盆といった町の祭りがあったのですが大人達がテントに集まりワイワイ飲み食いしていた光景とかぶり、正に昭和・・・!
この人達がエキストラで、映画のワンシーンを見ているような錯覚に陥りました!!
民間が行う行政、温浴施設は地域のショールーム
先に述べた地産地消など地域のイベントや食材を取り入れ、地域を施設のアピールポイントに使う戦術は多くの施設でも行っていることです。
こういった戦術レベルとは一線を画しています、運営しているのは温浴施設ではなくエリア(地域)であり、施設はそのショールームという位置付けだと山崎氏は言い切ります、戦術ではなく経営戦略なのです。
行政の民営化ならぬ、民間が行う行政とでも言えるこの考え方は地域が発展しなけらば未来がないということを真剣に考えてのことで、少子高齢化、人口の逓減の中で集客が難しくなるのはどの商売でも同じことです、その中で集客を増やして行くには減少をする限られたキャパの中で10%の利用率を15%や20%に伸ばしていかなければならないということです。
レイヤーの違う競合店と集客を争うよりは、地域を活性化させ自店に興味をもってくれそうな人達が住みやすい町への成長に貢献することこそが重要なポイントと位置付けているのです。
実際、行政とコラボした様々な仕掛けで地域の産業を発信を行い、IターンやUターンなど人材の流入など広報活動を行うなど企業としてそのスキルを発揮されているようです。
新卒入社倍率10倍の風呂屋
山崎氏の会社運営の最大の目的は社員がワクワクすることを行い続けることだそうです。(山崎氏インタビュ記事はこちら)
そのためには共感を持って仕事ができる、感性を持った人材の確保と教育が重要です。
温泉道場の正社員は30数名、その大半は日本全国から志望してきた新卒組の社員達です。昨年は6名、そしてこの春にも同じ数の新卒社員が入社を予定をしています。
世間の温浴施設では人出不足の煽りを受ける中、温泉道場の新入社員の競争率は10倍を超えているそうですがなぜこんなにも人気があるのでしょうか?
設計とデザインは違う、デザインできる人達の集団
設計図通り建物を作り、組織を作る。
設計することは大切なことです、しかし、多くのサービス業はこれだけに頼っているケースが非常に多い、これだと設計図通り出来上がった竣工式の日が施設のピークであとはその財産を食いつぶすだけです。
デザインはそれぞれのコンセプト、思い、感性を細部にわたって創り続ける作業場の提供ではないでしょうか?組織や仕組みもそうです、システム化された完成された仕組みを導入してもそれを如何にカスタマイズし、変更を加えていけるのか?マニュアル偏重の組織は時代や世の中の変化にには対応できなくなります。
仕組みを設計するの仕組みをデザインする、この言葉の意味は似て非なるものものと言えるでしょう。
例えば、先の2施設はローカルな雰囲気や、古く懐かしい昭和ノスタルジックな雰囲気を田舎にあるから醸し出せている訳ではありません。
ここで働く人たちは全国から集まった自分の感性を表現したい若者たちです、そこに地域採用の人たちとジョイントをして計算をしてデザインされたスペースです。設計士の図面通り、指定された家具やオブジェ、材料や素材を組み上げた人工的なノスタルジックや田舎の雰囲気ではないということです。
冒頭で完成したその日がピークの店とその後商品力を高めてゆく施設との違いはそういったことなのです、そして残念ながら多くのサービス業では経営者がデザインをし続ける重要性を理解せず、また自分たちで考動できる人材の必要性を感じていないのことが多いように思えます。
温泉道場が人気があるというのは単なる温浴施設運営事業所でなくデザイナー志願者を求め、そして実際に自分の感性でデザインを行うことができるデザイン事業所だからなのです。
昭和初期にカラオケはありませんでした、だけどそこにいる人たちがピタリと思惑にハマリ時代の絵の中に入り込んだ錯覚を感じるのは無機質に作られた空間ではないからです。
今後、こういった取り組みを経営の中心に於く施設がますます重要になることは間違いありません、この空間はひょいと造れる空間ではないので上辺でものまねをしてもすぐに化けの皮は剥がれてしまいます。
建築や設備、徹底されたシステム、新しいものは今後も支持はされるでしょう、しかしハリボテは所詮ハリボテです。
温浴施設は日本の癒し文化を牽引する独自の文化です、癒しには自然なことが重要です、そして何よりも人間力は大袈裟な装置や仕掛けを必要としません。
数億円かけて設計図通り作られた壮大な偽物よりも、日々人の感性によってデザインされ続ける施設の方が心地よいのは当然のことです。
当たり前と言えば当たり前、それを行う温泉道場の進化は今後はますます楽しみです。
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