介護士の心を守るミーテイング力

養護老人ホームのお手伝いをさせて頂いています。

私は両親が共に古希を迎えることなく他界したため介護の経験はなく、施設現場をイメージすることもなかったのですが、直面した現場は予想を超えるようなものでした・・・

ユニット介護と呼ばれるこの施設は、1ユニット10名の入居者がそこで生活をされておりユニットリーダーを中心に5〜6名の職員が24時間交代でお世話をするという形式です。

認知症の方と接したこともないので、施設の日常を見たときは驚きでした・・・

まるで「カッコーの巣の上で」の世界のように感じたのはつかの間で、そこに暮らす人達の個性と人の尊厳を尊重しようとしながら彼らに接する職員の行動に感動さえ感じました。

この施設は入居者の人間としての尊厳を介護を行う上で大命題とし、多くの研修を行い職員の意識の徹底がなされ、そして職人もそれに答えるよう日々の業務に取り組んでいます。

とても素晴らしい事だと思う反面、観察を続けていくと「人間の尊厳」という定量化できない定義に対してサービスを提供する上で生じる矛盾点も感じるようになりました。

介護職員の人格と認知症入居者の人格

介護を行う上で人格の尊重は常に意識されなければならない問題です、通常のコミュニケーションが取れない認知症が進んだ方や、身体の自由が効かず体力が落ちた老人に対してサービスを提供する側がこの観点をおざなりにすれば人間として対等な立場である関係が崩れ易い環境にあるからです。

敢えて、「サービスの提供」という言葉を使いましたがこの施設ではそういった表現をする事すら憚られるほどで、職員は入居者のお住まいにお邪魔して、日々の生活での不自由をお手伝いさせていただいているのだと教育を受けています。

入居者にこちらの都合で身体的に行動を束縛する事、あるいは故意的に介助を行わない事、心ない言葉、意図せずとも結果的にであっても虐待となるような行動を取らないように、健常者に対して以上に意識を持たなければならないのです。

そのために、様々なガイドラインが話し合われ決まりとしてのルールが設けられています。

私のような慣れない者が現場にいると「そんな事まで意識するのか・・・?」と思わず職員の行動に

”今の行動はどういう事ですか・・・?”と質問の嵐になります。

本当に大変な事だと思うのです。

しかし、色々な職員の後ろに立ってこの質問を行うと必ずある枕詞がつく事に気づきます

『私のやり方は・・・・』

全員がほぼ確実に答えにこの言葉が入るのです

尊厳の定義は人によって違う

人間が人間に対して尊厳を持って接する、それがどういったことかというには最終的には個人個人の心に委ねられています。

介護の仕事は間違いはあっても正解のない問題を解き続けるような日常だからです。

ですから施設が人間の尊厳についての教育を熱心に行いながら、最終的な行動については自主性に任せているのは理解はできます、しかし個人の自主性には常に甘えが生じる可能性があります。

それはつまり、一貫性のある介護が行われなくなる可能性もあると言う懸念です

意思の疎通が困難で個人個人の感じ方の違う課題だからこそ、徹底的に話し合いを行い方向性を共有し、個人の問題で片付けない厳しさが施設には求められるのです。

例えばある男性の入居者様のおむつ、パッドの包み方は同じ時間に同じ状況であっても人によって4パターンのやり方があります。

ある人は紙パッドに穴を開けて男性器をそこに通すやり方を、別の人は穴は開けず包み込むやり方をするのですが、前者は横漏れを防ぎ不快感を味わうリスクを最小限に止めるという考えで、後者は男性器を固定してしまうような、いわば男性としての尊厳を考慮しての考えです。

さらにこの状態から腰巻に大判パッドを巻く場合とそうでない場合があります、窮屈でも布団を濡らす不快感を軽減するか、締め付けを軽減するか、そこにも介護士一人一人の判断に委ねられるのです。

どれが正しくて、どれが正しくないのか・・・・?

こういった事例の連続ですがその答えはどれもが正解なのです。

答えのない世界だからこそ話し合う力が問われる

答えがないと言いましたが、その答えは入居者様自身が持っている筈です

しかし、本当に望んでいる状態がどういう状況なのか明確な答えは得られません、たとえその場の雰囲気や表情で判断できると言ってもその判断自体がそれこそ受け止め方によって違う可能性があります。

入居されている方の多くは、そこで人生を全うされる可能性が高く、それが1年なのか10年なのか、あるいはもっと長いのかは判断できないケースの方が圧倒的です、ならば人によってバラバラな介護を行うよりも統一をしたほうが実は入居者様にとってもいいのではないのでしょうか。

とことん話し合って、何がベストなのかをユニットで決める、そしてそれに慣れて頂くことが快適な生活につながるのではないかと思うからです。

大切なことは、入居者側に立って話し合いが持たれるということです

認知症の方の尊厳を守ることは実は介護士の人間としての尊厳を守ることである

ユニット介護の最大の特徴はできる限り生活スタイルを入居者のペースで暮らして頂くことを挙げています

決まった時間におむつを替えて、食事をさせて、流れ作業のように入浴させて、決まった消灯時間に眠らせる・・・・

色々と話を聞くとそういった介護の仕方が主流だった時代があり、そして今でも効率を重視したそういったやり方もあるそうです、こうした介護スタイルは実は介護される側だけでなく介護する側の介護士の心を蝕んで行きます。

多くの介護士さんをインタビューして感じることは、人を人として扱うというと当たり前の行動が実は自らの心を平穏に保つことだと気づいていることです。

人間らしく生きるとは人間らしく振るまえてこそ保たれる感情であるということです。

介護現場ではこの心のバランスの保ち方が難しく、現場を離れる人や不安定な精神状態になった体験談が山のようにあるのです。

施設側は労働環境を整えることが重要なことですが、その中には介護士同士が十分な話し合いを持てる環境を提供するということも含まれています。

介護業界で望まれるリーダ育成環境

人材不足が深刻な中、AIや外国人労働者の存在を声高に求める風潮にありますが、果たしてそれで解決するのだろうか?

介護現場から感じるのはそういったことに対する疑問です

介護保険が始まり、現在の介護制度がのあり方が適用されてそれほど時間は経っていません、その間に多くの介護施設がビジネスとして設立され、それぞれのやり方で運営を行ってきたのだろうと現場の人たちと接するなかで介護の経験のない者でも明らかにそれがわかります。

全国のどの施設もそこの職員は生え抜きばかりではなく、様々なやり方が入り混ざっています。

私のやり方は・・・が横行しているのです

介護施設の人材教育で大切なことは、これをまとめるファシリテート力のある人材を育成できる環境であるかどうかということにかかってくるでしょう。

施設は介護の技術力の向上と共にこうしたミーテイング能力を高めていく人材教育に力を注ぐ必要があります。

リーダーになりうる人達は押し付けでなく合意力を引き出す力を求めています、複雑な労働環境のなか常に意思疎通の難しと直面している職場です、メンバーとのそれを円滑にすれば抱えている問題は大きく改善できるのではないでしょうか。

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小野康成 温浴施設コンサルタント 温浴施設の持つポテンシャルを視座を変えて見つめ直すと実に多くのサービスを提供できます。それを必要としている人が地域には溢れています。17年間で複数の温浴施設・飲食店を立ち上げ現場指揮から得た経験から、施設と地域と人を繋ぐプロデユースを行なっています。